燦々と太陽が照りつけるフィレンツェから冷房が
故障したシエナ行きのバスに乗り込んだのは、
取材メンバーである著名なノンフィクション作家
のH.Kさん、NY在住カメラマンY.Sさん、そして、
取材コーディネーターの私。
個性豊かな女3人の珍道中とも言える取材旅行。
天気がよいせいか、日曜だからなのか、
その日私たちが乗り込んだバスは満席でした。
早めに乗車し、向かい合わせの席4席を、通路を
挟んだ右側左側の8席にまたがってゆったりと
座っていたものの、次々と乗車する旅行客で
やがてその8席は満席に。
最初にお隣に座ったのは英語が堪能でインテリ
の元大学教授という中国人女性。定年退職し、
3週間のヨーロッパ旅行を楽しんでいるのだとか。
英語から流暢な中国語に切り替えて話しかけた
作家のHさんに驚き、世間話に花が咲く咲く。
次ぎに現れたのは地球の歩き方日本語版を
手にした60代くらいの韓国人姉妹。
(伊語はNG。英語もほぼNG。日本語ちょっと)
お姉さんのご主人は日本生まれ日本育ちで
彼女も10年ほど日本で暮らしたことがあるそう。
漢字世代で日本語は話すより読む方が得意。
日本にいた頃は日本語の本をよく読んだとか。
そこにイタリア語しか話せないサルデーニャ島
からバカンスに来たというイタリア人老夫婦が
加わると、前々からサルデーニャに行ってみたい
と思っていた韓国人のお姉さんが矢継ぎ早に
ご夫婦に質問の嵐。通訳は私(苦笑)。
会話をするにもまるで伝言ゲームです。
中国語、韓国語、日本語、英語、イタリア語
が飛び交い、誰かが誰かの通訳をしながら、
冷房がまったく利かない熱気に包まれた車内で
盛り上がる盛り上がる女性たちのおしゃべり。
場は一気に国際色豊かになったのでした。
その光景を眺めながらYさんがひと言。
「この光景って凄いですよね。日韓中に伊が
加わってこんなに盛り上がってるんですから。
政治レベルじゃ、これ、あり得ないですよ!」
本当にその通りです。
移動の際、私は車を使うのが常なのですが、
思い返せばイタリアで暮らしはじめた頃は
お金もなく、車も持っていなかったから、
移動はいつも公共の交通機関でした。
そこには様々な国の様々な旅人との出会いが
ありました。驚きがあり、好奇心を掻立てられ、
つたない語学力で相手を理解しよう、
相手に伝えようという意気込みがありました。
そして、そこには活字では得られない
生の声と情報が散りばめられていました。
旅の醍醐味はまさにそこにあり、だからこそ
旅は楽しいのだと、あらためて実感した
貴重なひとときでした。それは絶対に
バーチャルの世界では得られないもの。
多くの人(とくに若い人たち)が外に出て、
国籍や文化の違う人々ともっと日常レベルで
交われば、世界はもう少しいい方向へ向かう
のではと思うのは、私だけでしょうか?
アッティコ・ローマ
村本幸枝